2008/5/15
art drops インタビュー 2008 vol.3 テーマ:「編集・記録する」 オカッコ
林絵梨佳さん/武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科在籍 ―後編―
■ アーカイヴルームを担当した視点で見た展覧会
アーカイヴルームでは、過去30年分の資料全てが一般公開されたわけではなかった。しかし、インターンとしてアーカイヴルームに携わった林さんは、一般公開されなかった全ての資料と向き合った。そんな林さんは、今回の『通路展』を過去が凝縮されたものだと振り返る。
「多分他のアーティストだったら、色んないらないものを削ぎ落として完成されたシャープな美しいものが出来上がったりするんだろうけど、今回の『通路展』は、闇鍋みたいな感じで、色んな要素が煮詰められた展覧会だと思いました」。
普通なら捨ててしまいそうな航空券や会議中のメモ、プロジェクトを進める上でのe-mailのやり取りなどが収められたアーカイヴルームと『通路展』はどこか似ているようにも思える。
ファイルと同様、敢えて過剰に「編集」せず、過去の軌跡を展示していたのではなかろうか。
「あまり編集されていないといえばそうかな。資料はプロジェクトごとにまとまっていて、今回の展覧会では過去に行ったプロジェクトに関連するラボもあったのですが、ラボでの動きと資料がイコールではなくて、今までの30年分の資料と展示全体がイコールのような気がしました」。
アーカイヴルームに収められた資料が作品と鑑賞者との距離を埋めたことは言うまでもない。しかし、何より林さん自身の作品を知ろうとする行為そのものが、林さんを『通路展』が抱える過去に対して深く感知できるように導いたのだろう。
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wahラボの様子(左図)、編集ラボの様子(右図)
■ アーカイヴルームでの活動を振り返って
最後に林さんに、アーカイヴルームでの活動を振り返った感想を伺った。
「うーん。一連の活動を通じて、私って、現場主義なんだなって思いました」。
会期中、30名のアーカイヴのボランティアスタッフは運営にあたって一同に集まり作業をすることはなかった。
「みんなシフト制でシステムにのっとって顔を合わせることもなく作業をしていました。そこで、お互いを知って仕事が進むようにしました」。
林さんは、ボランティアスタッフ全員の写真を撮り、プリントアウトしてスタッフに見せ、構成メンバーを知らせた。また、スタッフが来る前に部屋を掃除し食事を作り、差し入れするなどもした。
「こういう細かいことが出来ると、アートマネジメントって大抵出来るんじゃないのかっていう錯覚に陥るんですけど(笑)」。
アートマネジメントという一見華やかな響きとは無縁とも思える地道な努力を積み重ね、周囲への気配りを絶やさずインターンを勤め上げた。
アーカイヴルーム、林さんとボランティアスタッフでの打合せ
■ 今後の展望
大学卒業を来春に控えた林さんはいま、「アートアーカイヴ」を題材に卒業論文に取組んでいる。アーカイヴルームの資料は、東京都現代美術館での公開が終わったいま、次の設置場所を求めて美術館をあとにした。2つの行方と、そこから広がる新たなストーリーの展開が楽しみだ。
■ 結び
『通路展』は、川俣正氏の「今まで」が総体的に表れていた。現に、今回の展示にあたって制作されたコンセプチュアルブックの帯には、『制作プロセスから生まれてくる同時多発的な出来事そのものが、最終的に作品を左右する大きな要素となることから、プロセスをそのまま表現の最終手段として提示することができないだろうかと思った。』という、川俣氏の声が記されている。
プロセスそのままを提示する試みの上で編集された会場では、観客は動線を辿りながら「今まで」を林さんのように胸のうちで編集していたことだと思う。そこでは理解しようという個人の意志が測られたこと、また尊重されたことは否めない。
しかし、そのままを展示しようとしたメインの会場でも詳細を表すには限度がある。作品の抱える詳細がわかる資料全てを会場に置くことはできない。もっと作家を、および作品を「知りたい」と思った時、アーカイヴルームに人は足を運ぶ。そこでは、作品に対する見方に厚みが生まれる。なぜならば、「知ろう」、「知りたい」という気持ちが読み取る力を促進させるからだ。この意志こそが、資料に付加価値を与え、個人が受ける印象を左右するのではないだろうか。個人の興味次第で、紙そのものが持つ厚みも変化する。
林 絵梨佳(はやし えりか) 1986年 、千葉県出身。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科在籍。
好きな言葉:中庸 |
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■林絵梨佳さん手書き一問一答
text:オカッコ編集、edit:金子きよ子、photo(林さんのお顔画像):金子きよ子、photo(アーカイヴルーム関連):林絵梨佳
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