2007/12/15

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art drops 第9回 インタビュー  

12月:鼻=匂い、時代に敏感な感覚 
井上文雄さん(MUSEUM OF TRAVEL代表/デザイナー) ―後編―

■学校をつくることがズレて始まった「キャンプ」

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MOT ロゴマーク

「代官山インスタレーションが終ったら、MOTは終わりのはずだったんです。でも、もうちょっと何かできないかなと思って、勝手に始めてしまいました(笑)」。
代官山インスタレーションでの活動とは別に、2006年に改めて活動を開始していった。現在のMOTの活動の中心は、2006年の9月から展開している「キャンプ」というイベントである。

「学校をつくろうと思っていたことがズレて、『キャンプ』は始まりました」。

メンバーの鈴木さん(現在、ロシアに留学中)と井上さんの発案が原点だ。

「探せば、おもしろそうな研究をしている大学院生や新しく何かをやろうとしている20代〜30代の人がたくさんいるので、その人たちをゲストに招いて、現代の文化や社会について考える学校をつくろうと思って、鈴木さんとミーティングをしていました。ある日、他のメンバーに相談したら、いきなりやるんじゃなくて、実験的に2、3回やってから考えてみれば? と言われて…。確かにそうかもと。それで、『キャンプ』の企画が始まりました」。

まずは自分たちにできることから試して、周囲を取り巻く環境や条件に合わせながら、やりたいことを構築させていった。

 

■「キャンプ」の条件

プレゼンテーションとディスカッションとパーティーの形式を取って、毎回場所を変えながら「キャンプ」というイベントを開催することになった。定員は20名。参加者との距離を考えての人数となっている。

 

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プレゼンテーション
ディスカッション

「プレゼンテーションを依頼するゲストは、現代の文化や社会に関わっていれば、他に条件はありません。ただ、その条件も絶対ではありません。基本的にはメンバーとのミーティングで決めています。最近、どんなことを面白いと思って、なぜそうと思うのかといったことを話しながら。テーマや内容については、ゲストの希望がなければ、ゲストと一緒に決めています。どちらかというと、ゲストやテーマを決めることより場所を探すのに毎回苦労します」。

「“ストリート”という資本」「有名建築家の社会的位置」「盆踊りとクラブカルチャー」「ミュージアムビジネスの可能性を考える」「写真における“正方形”の系譜」「知覚の“改路”」などのテーマで、20代〜30代のゲストを招いた「キャンプ」が、馬車道、青山、荻窪、早稲田、本郷、池袋、関内などで展開されてきた。

 

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パーティーの様子、日本大通りにて
ディスカッションの様子、日本大通りにて

 

■今ある興味の対象は「話し合う」こと

「キャンプ」では、ディスカッションの問題設定や方向を明確には決めてはいない。それ故、ディスカッションが散漫になる場合もあるそうだ。

「いろいろな人が参加しているからこそできることを『キャンプ』ではやりたいと思っています。ある程度は、ぼくたちで議論の問題設定や方向を準備しているのですが、固執することはないです。予想もしなかった問いや意見に出会ったら、できるだけ話し合いたいと思っています。また、どうやったらそういった問いや意見に出会う可能性が高くなるか、毎回考えています。『キャンプ』をやりながら、気づいたことなんですが、今、興味があることのひとつは『話し合う』ことなんです」。
「いろいろな意見に出会うと、正しいとか正しくないとかとは別に、その人はなぜそう考えるのかという問いをたてちゃうんです」。

今後も、結論を出すことを前提に話し合うことはしないだろうと言っていた。そうなれば、「キャンプ」は、様々な方向を持つ意見が充満し停滞する場となるかもしれない。どこか代官山インスタレーションでの展示に似てはいないだろうか。肝心なのは、自分の価値観だけで判断して結論を出すことではなく、多々ある意見の中で自分自身の考えを位置づけ、他者の意見を想像することなのかもしれない。

 

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ディスカッションの様子、本郷にて
プレゼンテーションの様子、本郷にて

 

■結び

イベントを月15回くらいやりたいという井上さん。そうなると、毎回移動するのは大変だ。

「もっといろいろなイベントを、できるだけ小さなテーマで開催したいので、来年は場所を固定したいです。賃料が限りなくゼロに近い、そんな都合のいい場所を東京で探しています。いつになるかはわかりませんが、本や雑誌もつくりたいし、ネットでラジオも映像もやりたいし、展覧会も企画したいと思っています」。

MOTの新しい道筋を嗅ぎ取っていく感覚のベースは、物事を俯瞰する姿勢に由来するのではなかろうか。今後も流動する環境に合わせるべく、できるだけ小さなことで、今ある社会が内包している可能性を引き出せるような選択をし、自身とMOTの活動を柔軟に展開させていくのだろう。

 

※ヒルサイドウエスト:槇文彦が設計した、事務所・店舗・住居からなる複合施設。

 

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井上文雄( いのうえふみお)


MUSEUM OF TRAVEL代表/デザイナー。1973年神戸市生まれ。 93年、中央大学法学部政治学科入学。96年、大学を中退してエディトリアル・デザイン事務所に勤務。99年、フリーランスのデザイナーに。04年、東京コンペ#1入選。 05年、代官山インスタレーション2005入選。Design Tide 2005「六本木×100DESIGNERS」出展。06年、RA研究会を立ち上げる。ニコラ・ブリオーの『Relational Aesthetics(関係性の美学)』の翻訳をしながら月1回の研究会を開催中。07年、「Double Cast(ダブルキャスト)」展のトークイベントの企画などを担当。2006年以降、MUSEUM OF TRAVELを中心に活動を展開している。

 

■井上さんからのお知らせ

12月15日(土)、横浜ZAIMにて初めて、専門家ではなく、大学で都市計画を専攻したことがきっかけで、「団地」ファンとなった方を招いて「キャンプ」を行なう予定。今までとは、違った「話し合い」が見られるかもしれない。

詳細:http://mot06.exblog.jp/6909665/

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text : オカッコ、edit : 金子きよ子、photo (井上さんのお顔画像):ドイケイコ、
photo(代官山インスタレーション2005):増田弘和、
その他のphoto及び画像提供:MUSEUM OF TRAVEL

 

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