2008/2/22

TOPCONTENTSインタビューバックナンバー

art drops インタビュー 2008 vol.5  テーマ:「心が変容する」金子きよ子

半田真規さん/アーティスト ―後編―

■ 風景の残像を再現、展開する

2005年に発表した『白浜青松原発瓢箪』では、ギャラリーに置かれた巨大な瓢箪型のバスタブに湯が張られ、その上に吊るされた瓢箪が次第に枯れていく。
「このような経験をしました。ある砂丘の脇に自転車を止め、そこの松林を見ていた時、突然大きな瓢箪が目の前に現れて向こうの風景を遮ったのです。あっけらかんとした出来事に笑いが止まらなくなって、なんだかそれでわかった気がしました。自分はなにか小さな世界、一個の人間が持つテリトリーのようなものを信じていて、瓢箪はまさにその世界そのものだったのです」。

6

 

後になって、瓢箪は福井県の原子力発電所の脇にある花壇にあったものだということを知り、半田さんはさらに愉快になったという。

原発の職員が殺風景な花壇に植えた瓢箪。それが突然に再現される。さらにその中に展開を見る。何か理解出来る感覚を見る。
「僕の作品は、なぜだか分からないけど一瞬にして記憶に焼きついた風景を再現、展開することによって成立しているような気がします」。

 

■ 死に際に押すスイッチ

2007年、水戸芸術館で『世界境地博覧会』を発表する。
「この時期、不安定で吸い込まれる、何かに持って行かれるような恐怖感に対して、何か用意しなければ、と思うようになりました。その時のために、非常用スイッチを作る必要があると。自動展開していくもの。つまりそのような作品を考えなくては行けないと思うようになったのです。長く病気にかかっているような絶望的な状況の中で、展開されていく『死に際に押すスイッチ』みたいなものです」。

7

『世界境地博覧会』


『世界境地博覧会』についての説明は、『白浜青松原発瓢箪』で語られた世界視に対してのバランスのようにも写る。

『白浜青松原発瓢箪』では、『風景を再現展開すること』が重要視され、そのことによって、どこに向かっていくのかということは、示されていないようにも映る。一方で、『世界境地博覧会』には、何か半田さんの意思のようなものが感じられなくもない。
「僕にとっての作品は、ドット(点)という感覚に近いものです。それぞれが作用し、作用される、その仕組みが臨界に達すると‘今’という感情に似た、とても面白い状態になるのです。それが『真っ只中を体現する』ということです。今にあって、それを体現する。言い方を変えれば、助手席から見る景色のような、どうにもならない状況の上に見る風景の細部、あやふやで不安定、その情報量や状況における色気を体現していきたいのです」。

子供だった頃、助手席で見た流れる景色を追ったその感覚を見たような気がした。身体も小さく視野も狭かった幼少のあの頃、世界はコントロールの効かない混沌の真っ只中だった。
「作品のコンセプトが、僕にとって、『真っ只中にあって、真っ只中を体現する』ことそのものなのです」。

8

 

誰も気づいていても気にも留めないようなありふれた風景。しかし、なぜか異様に惹きつけられてしまう。後から調べてみると、背景に何かしら横たわる事情が眠っている。それらの風景は、半田さんと結びつき、変容していくことで、三次元の世界へと花開く可能性を帯びている。

 

■結び

インタビューに訪れた日、半田さんは数日後に迫った渡欧を前に、児玉ギャラリーで行われた個展『August』の最終日を迎えていた。

9

『August』

半田さんはロレックスの主催する若手アーティスト育成のプロジェクト『Mentor & Protege´ Art Program』に、日本人として初めて選ばれ、1年間ドイツ・ベルリンを拠点に欧州で活動するという。

ギャラリーはプラスチックでできた巨大なインスタレーション作品で埋め尽くされ、プラスチックの薄い板の無機質な質感の向こうに、一瞬、立体的に立ち上がる異次元の風景を垣間見たような気がした。

インタビュー中、半田さんの口から語られる言葉は、片付けては散らかし、また片付けるという一連の作業を繰り返しているようにも感じられた。
「言われてみれば、僕、散らかしたり片付けたりするの、大好きですね」。

「収拾が付かなくなる時に面白みが出て来るのです」。嬉しそうに半田さんが笑う。

その作品が、いったいどこに向かおうとしているのかは、依然として再現される風景に任されている。

再現、展開され変容していく風景が、我々鑑賞者にどのような影響を及ぼすのか。それは分からない。しかし、仮に半田さんがなぜだか惹きつけられるという風景が、エネルギーに満ちた臨界にあるのならば、何かをきっかけにして、今ではない世界へ変容を遂げるきっかけを探しているのかもしれない。

それらの風景は半田さんと一体となって我々鑑賞者をも、その異空間へといざなってくれるのかもしれない。

 

pora  

 

半田 真規(はんだ まさのり)

1979年生まれ、神奈川県出身。
児玉画廊「白浜青松原発瓢箪」2005年。越後妻有トリエンナーレ「ブランコはブランコでなく」2006年。水戸芸術館「世界境地博覧会」2007年。野外を含め数々の展覧会を開催。各地でのローカルな企画も多い。
2008-9年「Mentor & Protege´ Art Program」欧州滞在・制作をしている。

好きな言葉:何かする

 

■ 半田真規さん手書き一問一答

10

○オススメの本:青木淳  篠原一男  小林秀雄  佐藤孟江  ひみつの箱
○好きな店・場所・食べ物:そば屋  蕎麦 卵焼き ビール お酒 広い場所 遠望のきく所 
○大切にしている人・もの:友人 関わりのあるまわりの人達 衣食住含むまわりの道具 
○喜怒哀楽のポイント:様々な感覚を整理せず並べて行きたい 何かやる毎に喜怒哀楽あります

 

 

text:金子きよ子、edit&photo(半田さんのお顔写真):ドイケイコ

 

<<半田真規さんインタビューの前編はこちら

※このページに掲載されている記事・画像などの一切の無断使用は堅く禁じます。

 

top con