2007/8/15
art drops 第5回 インタビュー
8月:目=視線、視点 蔭山ヅルさん(アーティスト)
「場で起こる出来事に興味があるんです」
横浜の桜木町駅ほど近い雑居ビルの5階。ここにART LAB OVA(アートラボオーバ。以下OVA。)のアトリエはある。OVAのまわりにはちょっとへんてこで可愛い不思議な空気が漂っている。どんな人が運営しているのだろうと気になり、運営するメンバーの1人、ヅルさんの視線の先にあるものをのぞいてみた。 |
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■さまよっていた20代
とある日曜日の昼下がり、黙々とマトリョーシカを作る4人、縫い物をする3人。これは『ダルマトリョーシカクラブと手芸部』と銘打った集まりだ。初参加の人もいれば、何度となく足を運んでいる人もいる。時折なんとなく会話が交わされる。時が過ぎると1人、また1人と帰っていく。
OVA、非営利のグループが催すイベントの1つだ。
運営するメンバーの1人、蔭山ヅルさんは横浜市に生まれ、ご自身もアーティストである。
少女時代は、人から評価されることを求めて絵を描き、美術大学に進学した。
「美大に行ったところ、当然のことですが、絵のうまい人がごろごろいました。まずは美大に入ることを目標に描いていたので、目標を達してしまうと自分自身には何も残っていないんだ、ということに気づかされたんです。行き場を失って、アトリエにも行かず、友達と学食でしゃべったり、うろうろしたりしていました。20代はそんな風にさまよっていました」。
■アウトサイダーアートとの出会い
大学卒業後、アルバイトでお金を貯めては海外を放浪するうち、ヨーロッパで出会ったアウトサイダーアート※ に心惹かれた。
「そしてたまたま日本で大学の友だちに会い、そのことを話したんです。そうしたら、その友人は福祉施設で働いていて、遊びにきたらと。行ってみたら、“すげー、かっこいい”と思ったんです。それで、ミュージシャンのスズキや、そのほか、フォトグラファー、グラフィックデザイナー、CGアーティストなどを誘って、福祉施設でアートのボランティアをはじめたんです」。
スズキさんとは11年来OVAを共に運営するパートナーで、ヅルさんの大学時代からの友人にあたるスズキクリさんのことだ。
その後、施設で職員として働き始めたヅルさんは壁にぶち当たる。
「施設の中にはすごい可能性や面白さがあって、クリエイティブなことをやろうと思ったんです。でも、福祉施設というシステムの中で、やりたいことをやることに限界を感じたんです」。
■ART LAB OVA立ち上げ
施設を辞めたヅルさんは、1996年、スズキさんらとART LAB OVAを立ち上げた。
「もともと福祉施設で出会った人や作品に対する“すげーなー”ってところが始まりなんです。そういうものってなかなか出会えないし、また、ギャラリーに展示したら、全然違うものになっていることもある。その場に出かけないと出会えない人や作品ってあるでしょ。そういうのを見つけたいなと思ったんです」。
■場で起こる出来事
2001年には桜木町に、アトリエや音楽スタジオ、ギャラリーのほか、カフェ、パーティー、クラブナイト、ライブラリー、勉強会など、その時々に応じた様々なメニューを用意した多目的なアートスペース、『13坪のアートセンター』も開設した。
OVAの活動は場所やメニューを変えてもキーワードは場作りのようだ。なぜそれほど場にこだわるのだろう。
「自分たちの行き場がなかったから、行き場を作ろうと思ったのがきっかけなんです」。
隣からスズキさんのシンプルな答えがかえってくる。
OVAのイベントは私にとって居心地がいい。mixiやフリーペーパーでイベントを見つけた人が初対面でも違和感なくまったりとした空気の中で同居している。5年ぶりに来た人もいる。誰しもがそこにいることをごく自然に許されているように感じさせてくれる。
この居心地の良さ。もしかしたら、行き場がなかったからこそ迎え入れられるうれしさを知っているお2人がつくりあげている空気なのかもしれない。
「また、“場”すらいろんな出来事と出会える言い訳みたいなものです。いろんな人が来やすいように、それぞれの場に合わせてキーワードをちょっとずつくっつけているんです。例えば貸しアトリエだと絵を描くことであったり、BARだとお酒を飲むことであったり」。
そんなOVAのまわりには、常にいくつもの出来事が漂っている。
昨年は、野毛の居酒屋で友人に紹介された砂山典子さんの作品を、展示をするため奔走した。
「むせかえる世界」。1995年、砂山さんが制作した作品で、女性が着衣した巨大な赤いドレスの、スカートの中に観客は潜り込む。
むせかえる世界@横浜美術館 (c)砂山典子
『人の心を挑発する深紅の巨大ドレスをまとった作家は不特定多数の観客をそのスカートに招き入れる。無防備な状態で腰かけている彼女とスカート越しのコミュニケーションが始まる』
作品をとおしてアーティストが訴えかけるメッセージだ。
初対面のアーティストの作品の展示を実現するためなぜそこまで奔走したのかと尋ねてみた。
「話だけ聴くと全然イメージできないけど、おもしろそうだったからどんな作品か見てみたかったんです」。
拍子抜けするようなシンプルな回答がかえってきた。
「むせかえる世界」は、「むせかえる世界基金」を設立して寄付金を募り、ボランティアを募集し、最終的に、横浜美術館のエントランスで展示された。
※砂山典子さんの今後の活動については、末尾にも記載しています。
■アートは固定の概念と違う見方をすること
OVAでは都内公園のテント村で暮らす作家いちむらみさこさんと月1回、スナックを借りて、『BAR ぱる美』も開催している。
コジギャルこといちむらみさこさん
「いちむらさんって面白いんです。『わたしはこじきという商売だ。こじきは誰かに恵んでもらうかわりに、いろんな感覚をお返しとしてあげているんだ』と。アートは価値観をひっくりかえしたり、いろんな面からものを見せてくれたりするものなんじゃないかなと思っているのですが、いちむらさんは、そういうのを分かりやすく見せてくれていつも、刺激的です」。
OVAではいちむらみさこさんの著書や、アトリエに通う人たちが描いた作品を商品化したものなどをshopで取り扱う。いちむらさんの集めたゴミも1,000円で販売しているが、売れている。
「人は単に物ではなく、その背後にある物語を購入しているのだと思うのです」。
■なんのためにやっているか
活動を始めて11年。はじめは新鮮に感じたさまざまな企画もルーティーンと化し、ときにはこなすだけになってしまうこともあるという。
そんなときは、なんのためにやっているのか、自分達のやりたいことはなにか納得がいくまでスズキさんと話し合う。
「何のためにやっているかについては始終話していると思いますよ。とりあえず、誰かのためにやっているんじゃない、というのは確実でしょ。そこがぶれてきたら軌道修正する。例えば、イベントをやっていると参加してくれる人と運営するスタッフみたいになって自分達が楽しめず飽きてきたんです。だから、『部活』にしてみんなで勝手にやって楽しめばいいんじゃないかってことで、手芸部やダルマトリョーシカクラブをつくったのです」。
そうして、部活では参加者も主催者であるヅルさんたちも同じように活動を楽しんでいる。
発足してはじめのころはこの活動でお金を稼いでやっていこうと考えたこともあった。そのうち運営に追われて、本来やりたいことが出来なくなっていると感じた。
「スズキや私がやりたいとことを運営しなきゃいけないということに邪魔されてできないとしたら、それは本末転倒ですよね。どちらにしろ『アートでメシを食う』ことが目的になったらつまらないし、貧乏を楽しんでいます」。
今後もきっとこのスタンスは変わらないのだろう。
2007年8月12日(日)、横浜の野毛にある都橋商店街2Fの「Women's Networking Cafe はる美」(看板はスナックはる美)にて開催されたオーバのイベント、「オーバのバー は゛る美」の光景。8席しかない小さくてかわいいスペースでヅルさん、スズキさんと共に訪れる客が会話に花を咲かす。この日は砂山典子さん(右端の女性)も訪れていた。 |
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「私自身、昔は作品をつくっていた時期もあったんだけど、この活動を始めてから作品はつくっていないですね。何か形に見えるものをつくらなければならないというのから解放されてここで一緒にやっていることが制作なんです。だから外に何をやっているかを説明するときも、うまく説明しにくいんです。説明したら、別物になっちゃうしね」。
どこまでもゆるい。そのゆるさが肌に心地よかった。
■結び
取材がきっかけでOVAのアトリエに初めて足を踏み入れたのは、3年前になる。雑多な人があふれているその空間が私にはとても居心地が良くあのゆるい空気感にまた触れたくて、インタビューを言い訳のようにアトリエにお邪魔した。
ヅルさんは20代の頃、人の評価を求めても満足は得られないと気づいたという。だからこそ今はやりたいことに徹底的にこだわっているのだろう。
インタビューをして、OVAのゆるさは、考え抜かれた末に守られている確固たるゆるさだと感じさせられた。
ふと、インタビューを申し込んだときヅルさんからいただいたメールが思い出された。
「ただインタビューするのではなく、イベントやワークショップに実際に参加してほしい」。
ゆるさの果てにあるもの。それは、行く先々でしか味わえない、まさにその場で起こる出来事なのかもしれない。
そして、それこそがヅルさんの視点の先にあるものなのかもしれない。
■プロフィール
蔭山 ヅル(かげやま づる)
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スズキクリ
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■OVAの関連ブログ
「ヘンかわおいしいお役立ち◎ART LAB OVAのブログ」
「むせかえる世界」
「まげまげまげちょん*ちょんまげまげちょん」
■手書き一問一答
ヅルさんに「喜怒哀楽のポイントは?」「大切、もしくは好きな人、場所、本などは?」と質問すると、このような答えが返ってきました。
【 定期イベント】
■オーバが野毛でバーをオープン!!
なんと下戸のオーバちゃんが、お友だちの店を借りて単発でバーをオープンしています。
場所は、永瀬正敏主演映画「私立探偵 濱マイク」でもお馴染み、川沿いにずらりと並んだバーの百貨店、情緒あふれる不思議な飲み屋街「都橋商店街」2階。
カウンター席8席の、小さくてかわいいお店です。
チャージ+1ドリンクで1000円から。
詳細はメールでお問合せください。
・会場 都橋商店街2F「Women's Networking Cafe はる美」
横浜市中区宮川町1-1
・交通 JR横浜市営地下鉄桜木町+関内/京浜急行日ノ出町それぞれ徒歩5-10分
(大岡川沿い都橋交番となり)
・問合せ 事前 artlabova★dk.pdx.ne.jp
( ★を@に変えてください)
◎日本初!コジキ・ギャルがママの店
『コジキャルバーは°る美』
毎月1回オープン!
都内公園のブルーテント村在住、ホームレスアーティストいちむらみさこさんと、
オーバちゃんのコラボ企画です。ゲストホームレスママの参加もあるかも。
・日時 2007年8月23日(木)+9月27日(木)
18:00-23:00
◎『オーバのバー は゛る美』
毎月1回オープン
オーバちゃん企画で、手芸バーやおもしろゲストママなどいろいろ試行錯誤するアートの実験室です。
・日時 2007年8月12日(日)+9月13日(木)
18:00-23:00
■夏子&クリ+2才児の
音とからだの実験のぞき見カフェ
・日時 毎月1回火曜日
次回2007年8月21日(火)+9月25日(火)
19:00-21:00くらいまで
・料金 500円+ドリンク
・会場 ART LAB OVA13坪のアートセンター
・予約 要予約 artlabova★dk.pdx.ne.jp
(★を@に変えてください)
ドリンク片手に、まったり&テンパり異色パフォーマー手塚夏子と、オーバの「ス」ことスズキクリによる実験をのぞき見する夕べ。
試してみたいアイデアをもとに、動いたり、演奏したり、話したり。
なにかが起きたり、起こらなかったり。
予測できないゆるゆるナイト。
*夏子の愛息キリンさんも、このカフェの正式メンバーに加わりました。
でも、なにせ2才なんで、メンバーがぐずるなどの、非常事態はお許しください。(*v*)
■オーバキュー★ナイト
オーバ秘蔵の映像や音源と垂れ流すクラブナイト=暗闇活動報告パーティー。
音楽通りに創業90 年老舗コテイベーカリーのパンと軽食を用意します。
毎月恒例ナゾの男「たんばりん」とスタッフ「ス」のライブもあり。
・日時 毎月1回、土日祝日
次回2007年8月25日(土)/9月29日(土)
19:00 -終電くらい 21:00-ワンダフルドアーズ(ス+たんばりん)によるライブ
・場所 ART LAB OVA13 坪のアートセンター/要予約 artlabova★dk.pdx.ne.jp
(★を@に変えてください)
・料金 2000 円(夕食+お茶付き/ソフトドリンク300 円/アルコール500 円)
*みんなで食べられる『おすすめのおかず』持ち寄ってくれた人は1500 円に割引。
■ダルマトリョーシカ+こけしちゃん絵付けクラブ
・日時 毎月1-2回、日曜/祝日
次回2007年9月2日(日)+9月23日(日)
15:00-19:00ころまで
・会場 ART LAB OVA13坪のアートセンター
・ぶ費(材料+お茶つき)
オーバ会員 2200円
会員以外 2500円
・要予約 artlabova★dk.pdx.ne.jp
(★を@に変えてください)
■手芸クラブ
みんなでなんとなくうだうだとかわいいものとかへんてこなも
のとか手作りしています。
男子もいます。
・会場 ART LAB OVA13坪のアートセンター
・ぶ費(古布や糸、針など材料+お茶付き)
オーバの会員 1200円
会員以外 1500円
・要予約 artlabova★dk.pdx.ne.jp
(★を@に変えてください)
*手芸とマトリョーシカクラブの日時を同じにしました。
どちらか、お好きなほうをお選びください。
1度に両方やってみたい人は、マトリョーシカ代金だけで参加できます。
※■砂山典子さんの今後の活動
砂山典子さんの「むせかえる世界」は、2007年12月12日(水)〜2008年1月13日(日)、ソウル(韓国)のARTSONJE CENTER(アートソンジュ・センター)で観ることができます。こちらでは砂山さん含め、4人の作家の作品を紹介をします。「むせかえる世界」は会期中、約1週間の公開予定で日程は現在、調整中です。分かり次第掲載します。
text:金子きよ子、edit:ドイケイコ、photo:ドイケイコ
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